世界中で乱立する動画配信サービスに、かつて「LINEの顔」だった森川亮が挑戦している。若い女性に照準を合わせた「C Channel(Cチャンネル)」だ。おしゃれや食、恋愛などにかかわる1分程度の動画を提供。合間に見られる手軽さと、かゆいところに手が届くコンテンツが受け、今や10カ国で展開、登録数はのべ約2800万に達する。


■LINE社長の座捨て起業


「一緒に動画のビジネスをやらないか」。森川がCチャンネルの起業を考え始めたのは2013年。新卒で入った日本テレビ放送網時代の同期の三枝孝臣とのランチで盛り上がったのがきっかけだった。森川は当時LINE社長、三枝は日本テレビでインターネット事業を手がけていた。高速通信規格「5G」時代の到来が見えて来た頃だ。


LINEは上り調子だったが、森川はすでに社長退任を考えていたという。LINEはスタンプやゲームで収益を上げるだけでなく、電子商取引(EC)や広告などへと事業領域を広げていく段階に入っていた。


森川は日本テレビとその後転じたソニーで映像ビジネスに関わり、LINEの前身のハンゲームジャパンでゲームを手がけてきた。多角化するLINEが自分の得意分野から遠ざかっていくと実感。吸収合併した旧ライブドア出身で、ネットビジネスに明るい出沢剛に社長の座を譲る心づもりでいた。


LINEの顔だった森川には、多くのネット企業から経営者や社外取締役にと声がかかっていた。「リスクを取らないなら、社外取締役の方がいい」。しかし選んだのは、元同僚と、思い入れのある映像コンテンツの世界に回帰し、ビジネスを立ち上げる道だった。



森川(左)の社長時代にLINEは急成長した

■「男性目線」で失敗


とはいえすでに雨後のたけのこのごとく新サービスが登場する動画配信の世界で、どうやって生き残るか。目をつけたのが女性だった。化粧品やファッションなど、女性を巡るビジネスに関わる企業は、イメージを大事にするだけに広告宣伝費も多い。広告収入で稼ぐビジネスモデルが成り立つと踏んでいた。


ただ15年に始めた当初はうまくいかなかった。SNSで影響力のある女性のインフルエンサーを選び自社制作の動画を載せたが、狙う若い女性はいっこうに見てくれない。アクセスしてくるのはおじさんばかりだった。


考えてみると理由は簡単。当時のCチャンネルの社員は森川はじめ男性ばかり。「男性目線」でインフルエンサーを選んでいたからだ。この経験から森川は女性社員を中心とした動画制作へと切り替える


現在では女性社員が全体の7割を占め、男性社員は営業などの業務が中心だ。森川も動画については女性の意見を尊重、コスト以外には口を出さない。「男性が女性向けの動画を作っても説得力はない」


■グローバル化を志向


今は女性社員による自社制作と「クリッパー」と呼ぶ動画の講習を受けた女性インフルエンサーの投稿動画を配信している。


LINEの成功モデルも持ち込んだ。スマートフォンへの対応だ。ユーチューブは横長、若い女性がよく見るインスタグラムは正方形の画面が基本だが、スマホに合わせた縦長の画面を採用。動画がスマホで見やすいことも、支持を集めるきっかけとなった。月間再生回数は1億回以上に達している。


森川がCチャンネルでもう一つめざしているのがサービスのグローバル化。原点にあるのは日本テレビ時代に通った青山学院大学のビジネススクールの経験だ。テレビ局のグローバル展開をテーマに書いた卒業論文がCチャンネルの海外ビジネスの元になっている。「日本経済が停滞する今こそ、コンテンツを海外に発信することで日本を元気にしたい」




18年にはTBSホールディングスや集英社と組み、新人タレントが動画を配信するアプリ「mysta(マイスタ)」と呼ぶ新しいビジネスも始めた。「5Gは人がメディアになる時代。インフルエンサーというスターを生み出していくことが重要だ」とみている。


■5Gの勝ち組めざす


「5G時代を迎え、動画の需要は爆発的に伸びる」。森川は期待するが、まだ会社は赤字続きだ。現在の主力利用者が10〜20代前半の女性なのに対し今春、購買力のある20代後半から30代に照準を合わせた動画サービスを始めるなど、収益源を広げ黒字化をめざす。


インスタグラム、TikTok(ティックトック)など女性に人気の動画配信サービスは、いずれも短い動画が主力だ。この系譜に連なるCチャンネルにもチャンスはあるはず。森川は「有料の米ネットフリックスなどとは異なり、お金をかけて楽しむ領域ではない。空き時間に短時間で楽しめたり、成長できたりするサービスに力を入れていく」と意気込む。


インスタもティックトックも若い女性が普及の起爆剤となった。魅力的な動画やサービスで移ろいやすい女心をとらえ続けることができるか。LINE社長時代に、日本のSNSの頂点を極めた森川が、5G時代の勝ち組になれるかどうかは、そこにかかっている。



(篠原英樹)

6434人が犠牲となった阪神大震災は2020年1月17日で発生から25年。最大震度7の大地震が神戸市などを襲い、都市部に集中して大きな被害をもたらした。インフラ、企業などが復興を遂げてきた一方で、歳月の流れとともに震災の記憶の風化が進む。当時の惨状をとらえた写真と直面する課題や復興を示すデータで、四半世紀の歩みを追う。



発生


1995年(平成7年)
1月17日5時46分



震源


兵庫県淡路島北部沖合の 明石海峡




犠牲者6434人、被害額9.9兆円>

震災の直接被害額は約9.9兆円に上る。復旧・復興事業費は約16.3兆円。阪神大震災では津波による溺死が多かった東日本大震災と違い、建物の倒壊による窒息死や圧死が目立った。高速道路や新幹線などが大打撃を受け、重要インフラの「安全神話」が崩壊。耐震基準や地震予知などが見直された大きな転換点となった。p>

震災の爪痕なお 暮らしの再建難しく 現在、神戸の人口は約152万人。震災前の151万人から震災後に一時は142万人まで減少。震災により神戸を支えてきた重工業、酒造や靴といった分野の活力は、落ち込んだ。


災害公営住宅 高齢化率53% 復興住宅の高齢者の割合

日本の総人口に占める高齢者の割合 東日本大震災で被災した岩手県 阪神大震災で被災した兵庫県

(注)2018年10月〜19年11月末時点のデータを基に作成 兵庫県では住まいを失った被災者らが暮らす「災害復興公営住宅」の高齢化が深刻だ。人口に占める65歳以上の人の割合を示す高齢化率は約53%(19年11月末時点)。全国平均の高齢化率約28%と比べて高い。背景には我が家の自力再建がかなわない一人暮らしのお年寄りが多く入居したことがある。現在まで暮らしの再建はままならない。東日本大震災の被災地、岩手県の災害公営住宅でも高齢化率は約44%。被災地の高齢化は全国に重くのしかかる課題といえ、孤立を防ぐ取り組みは急務だ。兵庫県立大大学院の室崎益輝教授(防災学)は「高齢者の見回りやコミュニティーづくりを支援する仕組みが必要」と提言する。 日本酒の出荷量、震災前の3割 灘五郷清酒の出荷量 万キロリットル

神戸は日本を代表する酒どころだ。「白鶴」や「大関」などが集まる兵庫県西宮市から神戸市にかけての灘五郷も大打撃を受けた。若者の日本酒離れが進む中、廃業も相次ぎ、日本酒の出荷量は18年に震災前の3割ほどに。大きな被害を受けた神戸市長田区で生産が盛んなケミカルシューズも生産額は震災前の6割に届かない。

医療産業都市へ脱皮、 神戸の復興をけん引 震災を機に、神戸は重厚長大産業への依存から脱し、医療やIT(情報技術)といった分野にシフトしている。「神戸医療産業都市」には関連する368社・団体(19年12月末時点)が集まり、日本最大級の医療クラスター(集積地)に成長。神戸の復興のけん引役となっている。

日本を代表する港、神戸港は商業港としての機能を奪われ、復旧に長い年月を要した。それでも着実な復興を遂げ、コンテナ貨物取扱量(20フィートコンテナ換算)は17年に292万4000個と過去最高を更新し、18年は294万4000個に達した。輸出入総額も震災前の7兆1000億円を上回り、18年に9兆2600億円と過去最高を更新。国際コンテナ戦略港湾に指定されるなど、神戸港の復活を印象づけた。

問われる都市の実力、 人口減での持続可能な まちづくりへ 震災復興に追われた神戸は都市間競争で守勢に回った。神戸と同じく人口150万人規模の福岡市や川崎市などと比べ、人口やGDPなど基礎的な都市の実力がいずれも伸び悩んでいる。持続可能な都市経営をめざして市中心部でのタワーマンション規制と郊外ニュータウンの再生、米有力ベンチャーキャピタルと連携したスタートアップ支援と市内への拠点誘致などに取り組み、神戸の魅力の再構築に力を入れている。

震災の記憶や教訓 次世代に 四半世紀の歳月の流れとともに震災後に生まれた世代が増えてきた。風化への危機感は強く、震災の経験や備えの大切さを次世代にどう伝えていくのか。阪神大震災以降、東日本大震災など自然災害が相次ぐ日本社会における共通の課題でもある。

世界118の国・地域に発信 JICA関西 震災の経験や備えの大切さを、兵庫から国内外に積極的に発信している。国際協力機構(JICA)関西(神戸市)では2007年度から、海外の行政官らに震災の教訓などを学んでもらう「防災研修」をスタート。研修はアジアやアフリカなどを中心に世界118カ国・地域に及ぶ。各国の状況に応じて防災支援する狙いがある。20年の東京五輪・パラリンピックや25年の大阪・関西万博などでインバウンド増が見込まれる中、海外に記憶や教訓をさらに発信していく好機となる。


止まらぬ世代交代、 震災経験の神戸市職員41% 神戸市では震災を経験している職員は41%にまで減少している。市全体では96年以降に生まれた世代が5人に1人を占めており、時の流れを感じる。震災を経験した市職員の減少には、当時、震災業務に従事した職員が定年で退職していくことが大きい。記憶が風化していくことへの危機感は強く、市担当者は「当時の教訓をどう引き継ぐか重要な課題」と話す。


死者予想、首都直下は2万人超 南海トラフなら32万人超 問われる「備え」 2019年に日本周辺で起きたマグニチュード2.5以上の地震 2019/12/31 03:43:36 緯度:142.4579 経度:28.8748 M4.9 合計:867 首都直下地震と南海トラフ巨大地震が起きれば、甚大な被害が予想される。前者の被害想定では首都圏全体で最大2万3千人が死亡。後者も東海から九州までを揺れが襲う。死者は最大32万人、経済被害は220兆円超に膨らみ、東日本大震災を上回る被害が出る可能性がある。

政府が提言するのは、耐震化や業務継続計画(BCP)などの減災対策だ。停電や断水、交通機関のマヒなどインフラが長期間にわたり寸断される可能性があり、日ごろから水や食料などの備蓄が求められる。米地質調査所によれば日本周辺でM2.5以上の地震が19年の1年間で800回以上発生した。自然災害のリスクにさらされる中、日本全体での「備え」が問われている。



取材 神戸支社 堀直樹、小嶋誠治、沖永翔也、大阪地方部 下前俊輔、大阪社会部 丸山寛朝、堀越正喜、島田直哉 写真 小川望、目良友樹、小幡真帆、笹津敏暉 デザイン 渡辺健太郎 マークアップ 久能弘嗣 プログラム 清水正行

「それって仕事になるの?」。2013年3月、携帯販売会社を退職したばかりの鎌田和樹は、東京・日暮里のカフェで20代半ばの男に問いかけた。男は声や口の動きで楽器の音やリズムを再現するパフォーマー「ヒューマンビートボクサー」だ。「ユーチューバーという仕事もありまして」。「あやしいな」。鎌田はこう感じた。


■エアロスミスとの共演に驚く

これが後に日本で最も有名なユーチューバーとなるHIKAKIN(ヒカキン)との本格的な出会いだった。日本ではまだユーチューバーという言葉が、さほど知られていなかった頃のことだ。



ヒカキン(左)はユーチューバーの枠を超えた人気を得た

鎌田はほどなくしてヒカキンを見直すことになる。その年の6月のある日、シンガポールに行ってきたというヒカキンに「何してたの?」と聞くと「エアロスミスと共演しました」。米国を代表する大物ロックバンドだ。「この人は本物だ」。ビジネスにつながると直感した。


「動画で紹介するとその商品が売れるんですよ」。ヒカキンのこんな一言を聞いて思いついたのが、ユーチューブ版のテレビショッピング。こんなアイデアを持ってほかのユーチューバーともやり取りしているうちに気付いたことがあった。クリエーター気質のユーチューバーは、企業とのやり取りや営業活動が苦手な人が多かった。「それならまとめてサポートできないかな」。同年11月、6月に起業してとりあえずつくった会社を、ユーチューバーのマネジメント全般を手がけるタレント事務所に衣替えし、社名を「UUUM(ウーム)」とした。


■UUUM設立

13年末にはヒカキンは日本のユーチューバーとして初めて本格的に全国区のテレビCMに登場。知名度の高まりとともにUUUMも急成長した。



17年8月には東証マザーズに株式を上場。19年5月期の売上高は前年同期比68%増の197億円、営業利益は同74%増の12億円。19年には一時時価総額1000億円を超えた。上場する芸能事務所大手アミューズやエイベックスをしのぐ。


現在の売上高の6割近くを占めるのが、ユーチューブから受け取る広告料だ。ユーチューブは動画の冒頭などに自動的に流れる「アドセンス広告」に対する広告料を各ユーチューバーに支払っている。UUUMはこれをマネジメント業務の一環として一括して受け取り、8割を所属ユーチューバーに分配する。残り2割がマネジメント料としてUUUMの懐に入る。広告料はユーチューブ側が動画再生回数や登録者の数、属性をもとにした複雑な計算式で決めている。トップ級のユーチューバーは、これだけで億円単位の収入があるとされる。


ユーチューバーが家内制手工業で動画を配信していた時代に、ヒカキンや「はじめしゃちょー」といったスターをいち早く囲い込んだのが、鎌田が成功した最大の要因と言える。スマートフォンの普及でユーチューブを日常的に楽しむ若者が増える時期だったのも追い風だった。


パイオニアたちが所属しているのが求心力となり、次から次へと人気のユーチューバーがUUUMの門をたたき、雪だるま式に収益を増やしていく好循環を生んでいった。


■所属ユーチューバー300人超


急激な膨張にはリスクもある。UUUMの所属ユーチューバーは、今や300人を超える。鎌田が気にしているのは、動画の「炎上」やユーチューバーの不祥事だ。


「どうしてユーチューブを始めたの」。「どれぐらい準備しているの」。鎌田は新たなユーチューバーと契約するときには、事前に3時間以上の動画を見たうえで、質問攻めにする。1〜2時間話す時間があったら、会社について説明するのは15分程度だ。友人のような距離感で相手を見極めるのだという。


株式上場を機にコンプライアンス体制の構築にも腐心した。所属ユーチューバーの動画は専門チームが数十項目のチェックリストをもとに全て確認する。項目は著作権侵害のリスクから倫理的な問題まで多岐にのぼる。週に数本は問題のありそうな動画が見つかり深刻度に応じてユーチューバーに対応させる。鎌田は「チェック体制には自信がある」と胸を張る。



鎌田は「チェック体制には自信がある」という

■「自由」とコンプライアンスの間

ユーチューバーの研修にも力を入れている。年2回コンプライアンス研修を開き、過去に炎上した動画をもとに何が問題だったのかを解説する。たとえば背景に何が映り込んだらプライバシーを侵害しそうか。外で撮影する場合には、偶然入った一般人から苦情を寄せられる懸念もある。海外の人が見たらどう感じるか、という点にも気を配っている。


こうした取り組みもあって、炎上リスクを嫌ってこれまで見向きもしなかった大手企業からも声がかかるようになった。ユーチューバーが企業の商品を宣伝するタイアップ動画も売上高の2〜3割を占める収益部門に育った。

ただ難しいのはユーチューブならではの、個人の発信だから実現できる「作り手の自由」とコンプライアンスのバランスだ。


作り手の自由を確保するため、UUUMが動画をチェックするのはユーチューブに公開された後だ。どんなに事前に研修しても、再生回数を稼ぐための"炎上商法"は後を絶たない。広告主から見て一定のリスクは残っている。



UUUMは「TikTok」など新たな動画配信サービスにも接近している

■脱ユーチューブ依存

テレビ出身の芸能人も交えたユーチューバー間の競争の激しさの裏返しともいえるが、鎌田自身も安閑とはしていられない。大きな課題の一つが、UUUMの今の最大の収益源が、ユーチューブからの広告料である点だ。


どこにどれだけ広告料を支払うかはユーチューブ次第。ひとたびユーチューブ側が条件を変えれば、収益に影響を及ぼす可能性がある。そもそも新しい無料動画配信サービスが次々に登場する中、いつまでもユーチューブがその王様でいられるとは限らない。UUUMがいつまでも先行者利益を得られるわけではない。


UUUMは「ユーチューブ頼み」からのシフトを急速に進めている。18年にインスタグラマーを支援する企業を吸収合併し、19年には「TikTok(ティックトック)」投稿者のマネジメントを手がける企業と提携。ライブ配信でLINEとの提携も決めた。


「もっと個人が前面に出てくる時代になる」。鎌田はエンターテインメントの先行きについてこう確信している。「ユーチューブはその手段の一つにすぎない」。無料動画配信の主役が変わった時に、どうやって新たなクリエーターを発掘し、どこで勝負するのか。常に思いを巡らしている。


=敬称略、つづく

(清水孝輔)

無料の動画配信は有料とは異なる世界が広がっている。動画サイト「ユーチューブ」に自らを撮影した作品を投稿し、収入を稼ぐ「ユーチューバー」が、その中心だ。トップクラスの年収は億単位で、子どもの憧れの職業の一つに数えられるようになったが、近年、試練に直面している。類似作品が相次ぎ爆発的なヒットが生まれなくなっていることに加え、テレビからの参入者が草創期から活動するユーチューバーの視聴者を奪う。動画市場を支えてきたユーチューバーたちはどこに向かうのか。


「世界最大級のグミ、一人で食います!」。Tシャツ姿の青年がマンションの一室で、巨大なグミを次々と口へと放り込む。2015年の投稿後に1億2千万回以上再生されたこの動画の主は、チャンネル登録者数国内トップの約830万人を誇るユーチューバー、はじめしゃちょーだ。


はじめしゃちょーの巨大なグミを食べる動画は1億回超の再生回数を記録

(UUUM提供)

再生回数わずか3回の自己紹介動画からスタートしたユーチューバー人生は、「スライムで満たした浴槽に入る」や「コンビニの全種類のパンを買って混ぜる」など、ユニークなアイデアで幅広い世代の支持を集め、登録回数を伸ばしていった。動画中に使用した商品は売れ行きが伸びるなど、動画のインパクトの強さは企業も着目。商品の共同開発は引きも切らない。


ユーチューバーのマネジメントを手掛ける事務所、UUUMに所属し、テレビCMにも出演。社会的な知名度を獲得し、16年に登録者数日本一に輝いた。総再生回数が100億回を超えるユーチューバー、HIKAKINと並び業界のトップを走り続けてきた。


そのトップランナーが今、「動画の内容も変えていかないと……」と危機感を漏らす。再生数が1千万を超える動画は、多くが2〜3年以上前のもの。体を張った実験やゲーム実況といった「定番もの」が氾濫し、かつてのような爆発的ヒットは至難の業となっている。


有力なライバルも登場している。テレビからの参入者だ。


■「プロ」の参入

「さあ今日もやってまいりましょう、エクストリーム現代社会、米中新冷戦編!」


お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦が開設した「YouTube大学」。ホワイトボードと軽妙な語り口で歴史や政治・経済を解説する異色の内容は、お笑いファン以外にも支持を広げる。19年4月開設で再生回数は1億6千万回を超え、芸能人ユーチューバーの代表格の一人となった。


19年10月に人気グループ「嵐」がユーチューブチャンネルを開設すると、チャンネル登録者は瞬く間に約250万人に。こつこつと独自の動画を発信し、登録者を積み上げてきたユーチューバーにはできない芸当だ。


■自由度が魅力

なぜ、著名人がユーチューブに入ってくるようになったのか。さきがけとされるお笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太は「1人で時間を使える魅力」を挙げる。梶原によると、ひな壇に芸能人を集める1時間のバラエティー番組で、お笑い芸人に与えられる時間は「長くても1人5分」。「いまのテレビ番組ではスターが生まれにくい」と明かす。



お笑いコンビ「キングコング」の梶原雄太はユーチューバー「カジサック」としても活動する

18年10月にユーチューバー「カジサック」として活動し始めた梶原は、テレビで得た自らの強みを生かす。他の芸人との共演や、過去に出演した人気バラエティー番組の再現など、テレビ視聴者もつかむ企画を打ち出した。ほぼ連日投稿する動画は数十万単位で再生され、登録者は目標の100万人を大きく上回る160万人に達した。


■「テレビより収入は上」

動画の魅力は自由度だけではない。その市場規模の大きさだ。ユーチューブの月間ログイン視聴者数は世界で20億人。サイバーエージェント子会社のCA Young Lab(現Cyber Now)が18年に発表した国内ユーチューバーの市場規模は、15年の33億円から17年に219億円に急拡大。22年には579億円まで伸びると予測する。テレビ離れがささやかれる一方で、ユーチューブは若い世代の多くが接したことがあるメディアに成長した。


「ユーチューブの広告収益は、再生数1回あたり0.1円」―――。運営側は明らかにしていないものの、多くの関係者が明かす基準だ。動画の時間や内容、視聴者の年齢などによって異なり、人気が出れば1回あたり1円前後に上ることもあるという。100万回再生の動画1本ならば数十万円が稼げる計算だ。人気が出れば、物販や企業との共同企画などでさらに上振れする。梶原は詳しい基準は明かさなかったものの、「テレビでレギュラー番組を持っていた時代よりも全然収入は上。ユーチューブでスターになればいい」と話す。


■「9割が消える」

動画市場の黎明期を支え、市場拡大を後押ししてきたのが、低コストでユニークな動画を作り続けてきたユーチューバーであることは間違いない。彼らが開拓してきた市場に、若者が距離を置き始めているテレビ界からの参入者が相次ぐのは自然な流れともいえる。


強敵の登場に、ユーチューバーの未来はどうなるのか。ユーチューバー支援に取り組むユーチューバーNEXT(東京・千代田)の社長、岡野武志は「100万人近くの登録者がいる人気ユーチューバーも、10年後には9割が姿を消すだろう」とみる。


予算や人手が限られ、アイデア勝負のユーチューバーの動画は他者に簡単に模倣されてしまうのがネック。かつて人気だった「○○をやってみた」という類いの実験動画は、同様の動画が数多く投稿されたことで飽和状態。「一部のトップを除けば、自身の才能というより、たまたま黎明期に投稿を始めたら業界が盛り上がったという人も多い」と指摘する。


■テレビとネットの垣根は

はじめしゃちょーも環境の変化を実感している。「(同じことをやってる動画なら)素人より芸能人の方が見られる。ネタや映像の内容で勝負し、芸能人のネームバリューを超えられるかどうか」


はじめしゃちょーは多人数が参加するチャンネルを新設するなど次の一手を模索。19年末には、自身のチャンネルに芸能人を呼ぶ企画を開催した。再生数は290万回に上り、「いい意味で、テレビとネットの垣根がなくなってきた。クリエーターが多角的に活動するようになる」


岐路を迎えているユーチューバー。その中心にいるのが、100人を超えるユーチューバーが所属する最大手のUUUM。動画の作り手のみならず、マネジメント側のビジネス戦略も変化を迫られている。


=敬称略、つづく
(岩沢明信氏、篠原英樹氏)


デジタル化など事業構造の変革を機に、流動性の低かった日本の人材市場のあり方が変わる可能性がある

好業績下で人員削減策を打ち出す企業が増えている。2019年に早期・希望退職を実施した上場企業35社のうち、最終損益が黒字だった企業が約6割を占めた。これらの企業の削減人員数は中高年を中心に計9千人超と18年の約3倍に増えた。企業は若手社員への給与の再配分やデジタル時代に即した人材確保を迫られている。業績が堅調で雇用環境もいいうちに人員構成を見直す動きで、人材の流動化が進む。


上場企業が19年に募集(または社員が応募)した早期・希望退職者は35社の計約1万1千人だった。東京商工リサーチが調べた。企業数も人数も18年(12社、4126人)の約3倍にのぼり、多くの電機大手が経営危機に陥っていた13年(54社、1万782人)の人数を超え、6年ぶりに1万人を上回った。



35社の業績を日本経済新聞が分析したところ、全体の57%に当たる20社が直近の通期最終損益が黒字で、好業績企業のリストラが急増していることが分かった。この20社の削減幅は約9100人と、全体の8割を占めた。最終赤字の企業は15社(43%)だった。ただ、有効求人倍率は高止まりしており雇用全体としては悪くない状況が続く。


「黒字リストラ」で目立ったのが製薬業界だ。中外製薬は18年12月期に純利益が2期連続で過去最高を更新したが、19年4月に45歳以上の早期退職者を募集し172人が応募した。アステラス製薬も19年3月期の純利益が前期比35%増えるなか3月までに約700人が早期退職した。


企業を取り巻く経営環境は人工知能(AI)のようなデジタル技術の進展を受け急激に変化している。中外製薬は「従来の技術や専門性で競争力を保つのは難しい」と人材配置の適正化を急ぐ。



高度技術を持つ人材や若手を取り込むため、高額報酬で競い合う構図も鮮明だ。NECは19年3月までの1年間に約3千人の中高年がグループを去る一方、新入社員でも能力に応じ年1千万円を支払う制度を導入した。富士通も2850人をリストラしたが、デジタル人材に最高4千万円を出す構想を持つ。


年功序列型の賃金体系を持つ大手企業では、中高年の給与負担が重い。厚生労働省によると、大企業では50〜54歳(男性)の平均月給が51万円で最も高く、45〜49歳も46万円だった。昭和女子大学の八代尚宏特命教授は「人手不足に対応するには中高年に手厚い賃金原資を若手に再配分する必要がある」と指摘する。


今年もこの流れは強まる見通しだ。味の素は20年1月から50歳以上の管理職の1割強に当たる100人程度の希望退職者を募集。20年に早期退職を実施する予定の企業は足元で9社(計1900人)あり、うち7社が19年度に最終黒字を見込む。


定年後を見据え、早いうちに新しいキャリアに転じて長く働きたい人が増えるなど、働き手の意識も変わっている。即戦力となる中高年は、中小企業などの引き合いが強い。人材紹介大手3社の紹介実績では、19年4〜9月の41歳以上の転職者数は前年同期比3割増と、世代別で最も伸びた。


実際にエーザイでは当初見込みの3倍が希望退職に応募し、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスでも募集より36%多く集まった。デジタル化など事業構造の変革を機に、流動性の低かった日本の人材市場のあり方が変わる可能性がある。



(中藤玲)

日本では政府がキャッシュレスを推進しているが、欧米ではその弊害に関する議論が活発になっている。高齢者や地方など社会的弱者が取り残される恐れがあるためだ。カード会社などに手数料が取られ、万人に安価な決済手段を提供するという制度の根幹が揺らぎかねない面もある。政策当局の視線はキャッシュ・アクセスの確保に移りつつある。


■差別禁止・弱者保護を背景に転機


キャッシュレスは転機を迎えている


「多くの地方で銀行支店が減った結果、金融システム上、低い信頼しか得られていない地方のコミュニティー、高齢者、中小企業経営者は、安価・便利・十分な金融サービスを享受できていない。そうした人々の金融サービスへのアクセスを改善するように政策を変更する必要がある」


米連邦準備理事会(FRB)は2019年11月、地方コミュニティーの銀行支店アクセスと題するリポート(Perspectives from Main Street: Bank Branch Access in Rural Communities)で、オンライン決済などキャッシュレスの進展に伴う銀行支店の減少が、高齢者などに犠牲を強いている状況の改善を強く求めた。フィンテックブームがもたらしたキャッシュレス化の流れは、欧米では差別禁止や人権保護、弱者保護といった観点から転機を迎えている。


■フィンテックが変える決済基盤

数年前から国際金融界はフィンテックブームに沸いた。暗号資産であるビットコインなどが仮想通貨ともてはやされ、一部で決済にも使われた。モバイルの発達とデジタル化が銀行のあり方を変えるとの指摘も増え、経済学界でも「モバイルバンキングと決済革命」(The Mobile Banking and Payment Revolution)(スニル・グプタ米ハーバード・ビジネススクール教授)など、「革命」「破壊的」といった過激な言葉が飛び交った。


実際、金融のあり方は大きく変わり始める。キャッシュレス化は人口の少ない北欧諸国などで急速に進み、その決済に占める比率は英国やスウェーデンで50%を上回り、20%程度の日本と大きな差がついている。米国では銀行の支店数がピークの12年の8万3000支店から、18年には7万7000支店におよそ7%減っている。


キャッシュレスには光と影の両面がある。光の面の代表はキャッシュをベースにした金融サービスが行き届いていなかった新興国で、モバイル端末でのキャッシュレス決済が可能になったことや、銀行支店がない地方などで金融アクセスが改善したことだ。先進国でも銀行窓口などで人手をかけて実施していた決済がモバイルなどで実施され、金融機関のコスト削減につながっている。そうした技術を提供する新興企業が台頭し、経済の活性化に役立っている面もある。


■取り残される高齢者

影の面については、比較的早い段階から意識されていた。初期の議論はマクロ経済への影響が中心だった。ケネス・ロゴフ米ハーバード大教授は14年に論文「紙幣廃止のコストと利点」(Costs and benefits to phasing out paper currency)で、新しい技術が電子決済の選択肢を増やすことが見込まれる一方で、紙幣の廃止には難しい問題も生じるとして、中央銀行に依存しないマネーが増えた場合の通貨発行益の減少、カード会社に払う手数料による取引コストの上昇などの問題点を挙げていた。


実際にキャッシュレス化が進み始めると、影の面については実害の検証が始まる。英ロンドンのミドルセックス大学は18年に「金融包摂にとってデジタリゼーションのリスクと機会の研究」(Study on risks and opportunities of digitalisation for financial inclusion)と題する研究報告を発表した。エストニア、英国、イタリアの事例を検証したうえで、金融機関は身体や認知の困難が増える高齢化を見据え、金融アクセス改善に取り組むべきだと主張した。


19年1月には英国の学会であるRSA(The Royal Society for the Encouragement of Arts, Manufactures and Commerce)が「キャッシング・アウト キャッシュレス社会への移行に伴う隠れたコストと影響」(The hidden costs and consequences of moving to a cashless society)と題する報告を発表した。「キャッシュから逃れるダッシュが始まっている。金融機関はコストのかかるインフラを減らそうとしているが、それらを欠かせないサービスとして利用している何百万もの人々の金融ニーズに害をもたらしている」と指摘している。


■スウェーデン中銀が規制方針

「影」の部分が明らかになるにつれて、利用者の立場を踏まえた「キャッシュ・アクセス」を求める声が強まっていく。


英国では18年にフェアー・ファイナンス、エイジUKなど消費者団体からの委員などで構成する独立委員会、アクセス・トゥ・キャッシュ・レビュー・パネルを立ち上げ、キャッシュのあり方を検討し、その結果を19年3月に最終報告(Final Report - Access to Cash Review)としてまとめた。報告書はキャッシュ・アクセスの確保、幅広くキャッシュが受け入れられる状況維持、効率的で頑強なキャッシュインフラの構築、誰でもデジタル決済を選択肢としては使える状況にすること、キャッシュに関する監視と規制の確保などを求めている。


欧州の消費者グループの集まりである欧州消費者組織は19年9月に「キャッシュvsキャッシュレス 消費者はキャッシュを使う権利が必要」(Cash versus Cashless - BEUC)という報告を発表した。「イノベーティブな決済手段が選択肢になっても、キャッシュは決済手段として確保されるべきだ」として、欧州連合(EU)に(1)商店がキャッシュを受け付けることを義務付ける(2)消費者は手数料なしでキャッシュ・アクセスでき、ATM手数料の禁止国はその制度を維持する(3)ATMの利用可能な環境と適正な配置――などを求めている。


こうした議論の広がりを背景に、当局も動き始めた。


キャッシュレス先進国のスウェーデンでは、18年10月に中央銀行であるリクスバンクが、キャッシュ・アクセスについて「すべての銀行と決済サービスを提供する信用機関はキャッシュ・サービスの提供が義務付けられる。ただ、それを自ら実施しないで、ほかのエージェントが実施することを妨げるものではない。キャッシュ・サービスの提供には、個人に対する預金サービスの提供も義務付けることが重要とリクスバンクは考えている。キャッシュを、(電子的に使われる)信用バランスに変えたい人は、口座で実施できなければならない。中央銀行マネーと、商業銀行マネーの交換は銀行の役割である」(Consultation response on Secure access to cashConsultation response on Secure access to cash)との見解を示している。


■アマゾン・ゴーも軌道修正


アマゾン・ゴーも軌道修正を迫られている


米国ではキャッシュレスを拒否する当局の動きも出始めた。フィラデルフィア市は小売店のキャッシュレスを禁止した。キャッシュでの支払いを拒否してはいけないとするとともに、キャッシュ利用に対してほかの決済手段より高いチャージを課すことも禁止している。このキャッシュレス禁止(キャッシュレス・バン)の動きはフィラデルフィア市から、ニュージャージー州、サンフランシスコ市へと広がりをみせている。



サンフランシスコは全米でもフィンテックが盛んで、しかも所得水準が極めて高い都市だが、市はキャッシュレス化によってクレジットカードへのアクセスがしにくい低所得者やホームレスの人々に害になるとの見解を示している。


キャッシュレスで話題になったアマゾンが手掛けるコンビニの「アマゾン・ゴー」は、キャッシュレスが差別を助長するとの批判を背景に、19年5月に開いたニューヨークの店舗で現金を受け付けるようになった。これまでキャッシュレスだった店舗でもサンフランシスコなどでは店員に申し出ると、店員が機器を持ち出し、それでバーコードを読み取り、代金を受け取る対応をしている。


■日本は当局が収益優先の勧め

日本はキャッシュレス決済が花盛りだ

一方、日本では政府が先頭に立ってキャッシュレスを進めているほか、日銀も17年11月に当時副総裁だった中曽宏氏が、「日本は可住地面積当たりの金融機関店舗数が突出して多いなどオーバーバンキングの状況にある」と指摘したうえで、中長期的な収益の確保を念頭にビジネスモデルを見直すよう促している。


金融界ではそうした当局の後押しと呼応するかのように、みずほフィナンシャルグループがおよそ100支店の閉鎖方針を打ち出している。また実際の小売店舗ではキャッシュレス併用の動きが広がっているほか、一部では無人AI(人工知能)決済店舗が検討されるなど、動きが急だ。


ただ、例えば銀行支店の場合、人口10万人当たりの銀行支店数は16で、キャッシュレスが進みキャッシュ・アクセスが問題視される英国(17)、スウェーデン(15)と同レベルで、米国(26)よりも少ないのが現状だ。欧米の中央銀行が行き過ぎを警告しているのに、日本はさらに店舗削減を促しており、欧米と日本の監督当局の利用者保護に対する目線の差が浮き彫りになっている。

ライオンは2020年春をめどに、人事部が社員に副業を紹介する制度を始める。人材紹介会社と提携し、幅広い仕事を取りそろえる。副業は社員が自ら探すのが一般的だが、関心があっても自分で見つけるのが難しいケースが多い。紹介までするのは珍しい。所属する企業の枠を超えて事業を創造するオープンイノベーションを促すきっかけにもなる。



ライオンは、デザイナーが社外のロゴ作成をしたり、人事部の経験者が地方の旅館で人事システムの導入を支援するために月に数回働いたりするケースを想定している。出向中など一部を除く対象社員の2%に当たる50人ほどの利用を見込む。


日用品メーカーなど競合他社での副業や公序良俗に反する仕事などは禁止する。同時に(1)本業の残業時間と副業の労働時間で合計で月80時間を超えない(2)翌日の勤務まで10時間のインターバルを設ける(3)週に1日は休日を取得する、などの条件も設ける。


ライオンは社員が副業で得た知識や経験を本業に生かすことを期待する。掬川正純社長は「社内のことしか知らなければ、アイデアは浮かびにくい」と狙いを話す。


パーソル総合研究所(東京・千代田)によると「グループ会社内で副業を紹介し合う例はあるが、社外の副業を紹介する制度は珍しい」という。


副業は人手不足のなかで個人の能力を社外で生かす効果も期待される。国内の就業者に占める副業率は4%にとどまるが、政府が18年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公開するなど機運は高まる。総務省の「就業構造基本調査」によると、17年時点の副業希望者は就業者全体の6.4%の424万人で、5年前の調査から57万人増えた。


ライオンはこの制度に先立ち、20年1月から副業を申告制に変更した。これまでも副業は可能だったが、上司の許可が必要で研究職が大学の非常勤講師を務めるといったケースが大半を占める。


残業時間の管理などは個人が行う。副業中の労務管理は副業先が担うため、ライオンは関与しない。本業の生産性低下など悪影響が出た場合は上司が面談をするなどの対応をとる。


ライオンの新たな制度は、これまで従業員に任せていた副業制度から踏み出し、企業側が積極的に動く。こうした取り組みが広がれば普及が早まる可能性がある。


政府のガイドラインもあり、副業を認める企業は徐々に増えている。ただ労働時間の管理や法定労働時間を超えた場合の割増賃金をどちらが支払うかなど解決すべき課題もある。

さらば我が社ファースト しがみつくのはリスク

本社コメンテーター 村山恵一

人工知能(AI)研究の第一人者であるカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授は日本経済新聞のインタビューに応じ、AIの未来について「最終的には人間の考えを理解できるAIが実現するだろう」と述べた。あらゆる領域に応用できる汎用型のAIが実現する可能性も示した。AIの進化には基礎研究の投資が不可欠として、日本も政府が投資を増やす必要があると訴えた。


■「自然な会話可能、人間を支えるシステムに」

ヒントン氏は人間の脳の神経細胞を模した「ニューラルネットワーク」に着目し、約40年にわたりAIを研究してきた。大量のデータを学ばせるディープラーニング(深層学習)の中核技術を開発し、3度目とされる現在のAIブームのきっかけを作った人物だ。



ジェフリー・ヒントン トロント大学名誉教授

現在のAIスピーカーやチャットボットは質問に答えるが、内容は理解していない。ヒントン氏によると、将来は「AIが相手の考えを理解して自然に会話できるようになる」といい、あらゆる目的に応用できる汎用AIが実現する可能性がある。


ただヒントン氏は、汎用AIが技術的には可能だが「人間がいるので同じような汎用ロボットは必要とされないかもしれない」とも指摘した。「グーグルなど米IT(情報技術)大手は会話しながら人間をサポートする高精度なシステムを提供したがっている」といい、物理的なロボットよりも、人間を支えるシステムとしての開発が進むと見通した。



汎用AIは複数の技術を組み合わせ実現するとみられている。ヒントン氏は足りない要素について「論理的に思考する能力だ」と指摘。今のAIは画像や音声の認識は得意だが、人間のように推論するのは難しい。「思考するAIは次の研究フロンティアの一つになる」と強調した。


ヒントン氏は「チンパンジーは音声や画像を認識するが、人間のように論理的に思考できない」と話した。人間の脳が進化の過程でこうした能力を備えたことを踏まえて、仕組みが近いニューラルネットワークがAIによる推論を実現する鍵を握ると指摘した。


ディープラーニングなどAI技術は今後もあらゆる産業に広がる見通しだ。ヒントン氏は「生産性を高めて人々の生活を改善する」と強調し、今後5〜10年にAIによる技術革新が起きる分野として「医療画像の認識や自然言語の理解、ロボット」を挙げた。


■日本に苦言「基礎研究にもっと投資を」

日本の課題にも言及した。「政府は好奇心に基づいた基礎研究にもっと投資をすべきだ」と苦言を呈した。ヒントン氏が研究拠点を置くカナダは政府が大学での基礎研究に投資し、AIが注目されなかった冬の時代にも研究を後押ししてきた。「日本の投資が十分とは思えない」と話した。


特に「大きなブレークスルーは若い研究者から生まれる」とし、「自分の直感を信じて追求してほしい」と語った。応用研究だけでなく、若者が好奇心のままに大学で新しいアイデアを発展させられるようにする必要性を強調した。


今のAI開発はグーグルなど莫大な資金をコンピューターに投じた企業がけん引する。ヒントン氏は「データ量とコンピューターの性能がAIの進化を支える潮流は今後も続く」と話す。そのうえで「新たなアイデアが研究のさらなる飛躍につながる」という。量子コンピューターが実現すれば計算能力は飛躍的に高まり、AIの可能性も広がりそうだ。


《聞き手から》貫いた信念、日本に教訓


1969年、今のAIの根幹であるニューラルネットワークの可能性を否定する本が出版された。「誰もが限界を感じました」。ヒントン氏にこう投げかけると「私以外はね」とにやりと笑った。なぜヒントン氏は信念を貫けたのか。ヒントは彼の経歴にある。


 

今でこそコンピューター科学の権威だが、学部時代にケンブリッジ大学で実験心理学を学んだ。「私は常にヒトの脳の仕組みに興味があった」。好奇心に基づいた研究の重要性を訴える言葉は説得力がある。 AIの可能性をいち早く見抜いたのがグーグルだ。2012年夏、ヒントン氏を2カ月間研究所に招き、ヒントン氏はその経験で同社の研究者と働きたいと感じた。13年に加わり、彼に憧れる研究者がグーグルに集まる循環を生んだ。


 

翻って日本。ヒントン氏より少し上の世代に世界的なAI研究者がいたが、「冬の時代」を経て米国やカナダに研究で出遅れ、応用では中国にも差をつけられた。日本はAIが注目されて初めて巻き返しに動くが、ヒントン氏は基礎研究の重要性を説き、長年の蓄積が花開いたのは事実だ。日本はAIで失敗した教訓を生かさなければならない。


(清水孝輔、小河愛実)



黒人の女性経済学者らが、自らの体験を語り合った(3日、米カリフォルニア州サンディエゴ)



米国で130年超の歴史を持ち、2万人超の経済学者や学生が会員となっている米国経済学会が、より多様性を持つ場に変わろうとしている。米国で経済学は長らく白人男性中心の分野とされてきた。1月3〜5日に米カリフォルニア州サンディエゴで開かれた米国経済学会の総会では、黒人や女性の活躍を促すための活発な議論がなされた。


「黒人女性が経済学を専攻することについて」――。ボストン大やミシガン州立大など5人の黒人の女性経済学者が集ったパネルディスカッションで、人種と性別で分けた博士課程の学位取得者のデータが示された。黒人男性はその他の人種の男性と比べて10分の1以下で、黒人女性はさらに少なかった。「掃除をする人、コーヒーを補充する人とみなされている」。自らの体験談を交え、学術界の現状と課題を話し合った。


会場には性的少数者「LGBTQ」への理解を深めるためのブースも初めて設けた。会場全体で多様性を重んじる姿勢を打ち出すに至ったのには前段がある。昨年9月、大規模な会員への調査結果を公表した。


「性や人種による差別や不公平な扱いを受けた経験はありますか」。47にわたる質問項目で、会員個人の体験を尋ねた。結果は人種や性別で明確な違いが出た。「ある」と答えた人の割合は白人男性で6%だったが、白人女性で50%、黒人女性では62%に上った。


「自分の評価に対する満足度」も、性に応じて異なった。男性は46%だった一方で、女性は25%、性的少数者は34%だった。「学会発表で、著名な学者から同性愛者という理由で無視された」という自由回答もあった。根強い偏見も浮き彫りとなった。

「経済学を取り巻く空気を変える」(経済学会会長のベン・バーナンキ元FRB議長)。コロンビア大学の伊藤隆敏教授は経済学的な観点から「社会の『偏見』を統計的に正当化する悪循環が起きている」と説明する。


具体的にはこうだ。女性や黒人の能力が低いという偏見が社会にまん延した結果、会社の幹部や教授など主要ポストに採用されず、それを見た若い女性や黒人が努力しなくなり、結果的に優秀な人の比率が下がるというサイクルだ。「女性、黒人、移民、誰であっても能力があれば偏見なく登用する」という客観的な基準を明確にすることで「長期的に偏見の悪循環を断ち切る」効果があるとみる。



開かれたホールで採用面接を実施する(3日、米カリフォルニア州サンディエゴ)


経済学会の会合は、助教や准教授など学術ポストを目指す学生にとって、様々な大学の教授陣と会える最大の就職面接の場でもある。学会は今年から、採用面接に関して女性の心情に配慮し、面接ルールを変えた。教授らが泊まるホテルの居室での採用面接を禁じたのだ。性的被害を告発する「♯MeToo」に呼応する動きだ。


「教授の服が散らかっているベッドに座って面接をしていた。不愉快だ」。米国の女性博士研究員(29)はルール変更を歓迎する。面接する側も「当然共感する。オープンな場が必要だ」(オーストラリアの大学の講師)と話す。


諸外国を比較すると、米国で経済学を専攻する女性の割合は高い。2018年は教授で14%、准教授で28%だ。博士研究員も3割に上った。経済協力開発機構(OECD)によると、日本では研究者全体でみて女性比率は17%にすぎない。米国経済学会のルール変更は、女性の活躍が増えてきたからこその動きともいえる。



(サンディエゴで、大島有美子)

日本経済新聞社が2019年秋に実施した郵送世論調査によると、70歳以上まで働くつもりだと答えた人が60歳代の54%にのぼった。18年秋に実施した前回の調査に比べて9ポイント増えた。「人生100年時代」を迎え、高齢者を中心に就労意識が大きく変わっていることが浮き彫りになった。政府も企業も、高齢者が働き続けることができる制度づくりが迫られている。


何歳まで働くつもりかを選択肢を挙げて聞いた。「75歳以上」と回答したのは全体の16%、「70〜74歳」は21%だった。この2つを合わせた「70歳以上」は37%で、前回調査より7ポイントも増えた。減ったのは「60歳代」との回答だ。「65〜69歳」は26%、「60〜64歳」は14%だったが、合計すると前回より5ポイント減った。



こうした回答の平均値を出すと67.5歳で前回より0.9歳上昇した。いまは多くの企業が定年を60歳に設定しているが、回答者が望む定年はもっと高いといえる。


定年が現実味を帯びる層ほど、高齢まで働く意向があることも分かった。回答を世代別に分析すると「70歳以上まで働くつもり」は70歳代では45%、60歳代は54%に達した。30〜50歳代は3割前後で18〜29歳は18%と、若年層ほど低かった。70歳代では「75歳以上」との回答が34%にのぼった。



「70歳以上」と回答した人を男女別でみると、女性の28%に対し男性は45%と大幅に上回った。


職業別でみると、正規の職員・従業員は28%で全体の平均の37%を下回った。高いのは自営業者の72%で、パート、アルバイト、派遣・契約社員も46%だった。年収別では300万円未満が42%と高く、800万円以上は32%となった。


調査では老後に不安を感じていると答えた人が76%だった。不安の理由を複数回答で聞くと「健康」の71%で、「生活資金など経済面」が68%と続いた。低年収の人や待遇が不安定な人を中心に、老後の生活のために働き続けたいと望む人が増えた可能性がある。


こうした世論を踏まえ、政府も具体的な対策を打ち始めた。20日に召集予定の通常国会では、70歳まで就業機会を与えるよう企業に努力義務を課す法案や、公的年金の受給開始年齢の選択肢の上限を現在の70歳から75歳に繰り下げて受給額を増やせるようにする法案を提出する。希望者が高齢でも働き続けることができる環境をつくるためだ。


それでも就労意欲の高さに比べると、雇用環境の整備は遅れている。内閣府の高齢社会白書によると、18年の世代別就業率は60〜64歳が69%、65〜69歳が47%だった。これが70〜74歳では30%、75歳以上では10%と急激に下がる。「人生100年時代」への対応は道半ばといえ、官民ともにさらに対策が迫られる。


今回の調査では職場や地域に外国人が増えることの是非も聞いている。「良い」と答えた人は3ポイント増の69%で「良くない」は3ポイント減の26%だった。「良い」と答えた人に理由を聞くと「働き手として重要」が最も多く、10ポイント増の82%だった。


外国人労働者の受け入れに関しては「積極的に受け入れるべきだ」が31%、「好ましくないが、仕方ない」が50%で、合計で容認派は8割に達した。18〜29歳は「積極的に受け入れるべきだ」が48%にのぼった。


19年4月には外国人の新たな在留資格「特定技能」ができた。人手不足が深刻な14業種で外国人の単純労働に事実上、門戸を開いた。今回の調査では外国人労働者の受け入れに支持が広がっている実態が分かった。


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