CESでスマートシティー構想を発表したトヨタ自動車の豊田章男社長(左)と街の設計を担当するデンマークのビャルケ・インゲルス・グループのビャルケ・インゲルス氏(右)

年始に米ラスベガス市で開催されるデジタル技術見本市「CES」。その年のトレンドを占う重要なイベントだ。ちょうど欧米でサービスが始まった次世代通信規格「5G」が主要テーマになるかと思っていたが、事前に関係者に聞いたところ「5Gの本格的な展示は2月にバルセロナ市で開催される『MWC』にとっておく」と、多くを期待できない。そんな気乗りしないラスベガス入りを一気に興奮に変えたのが、相次いで予想を超える記者会見を実施した日本企業だ。正直度肝を抜かれた。


まずトヨタ自動車は東富士に街を造る構想を発表。自動運転電気自動車(EV)「イーパレット」が街なかを走り、人が自由に移動できる。イーパレットに組み込まれたコンビニや病院が自動運転で必要な人の場所にやってくる。


豊田章男社長は2年前の2018年に同じCESの会場でイーパレットを披露した。発表後にはソフトバンクと組んでモネ・テクノロジーズを設立。数多くの自治体などと協定を結んで、次世代モビリティーサービスの実現へ検討や実証実験を進めている。


今年開催される東京五輪・パラリンピックではイーパレットの「東京2020仕様」を十数台提供し、選手村内を巡回するバスとして選手や大会関係者の移動を支援する。


ただ現状では、東京五輪・パラリンピックが終わってしまえば、イーパレットが活躍できる場所がなくなってしまう。自治体との協定があっても、イーパレットを現実の環境で走らせられる場所の確保は難しい。商用化させるには、歩行者がいて自転車が走っている道路でイーパレットを走行させる必要がある。人と共存する環境で実験し、安全性を確保してようやく商用サービスに切り替えられる。そこからプラットフォームとして広く普及させるからだ。だから「手っ取り早く誰にも邪魔されないで実証実験できる場所」が必要だったと考えられる。


自治体と組んでも、法整備や安全性などからなかなか適した場所が確保できない。「場所がないなら自分たちで作ってしまえ」と東富士にある工場跡地を「イーパレットと人が共存する街」にしてしまおうというわけだ。


■ソニーはセンサーを多数搭載したコンセプトカー

一方ソニーはコンセプトカー「ビジョンS」を発表した。ソニーがクルマを作ってしまうとはまさに驚きだった。開発を担当したAIロボティクスビジネス担当執行役員の川西泉氏によれば「企画がスタートしたのは2年前の春。20カ月程度で開発を進めた」というスピード感だ。走行は可能だが、安全基準は満たしていない。それでも今後、日米欧でナンバープレートを取得し、公道で走れるようにするという。


ソニーがコンセプトカーを作ったのは、自動車メーカーを目指すのではなく「クルマ向けのセンサーを売る」狙いがある。ソニーのスマートフォン向けカメラモジュールは絶好調だが、14年から車載向けのカメラやセンサーモジュールにも注力している。


ソニーは18年のCESで「セーフティコクーン」というビジョンを発表している。車載向けのカメラモジュールやセンサーを活用して、人の目で確認できない障害物を早期に感知、回避して安全運転につなげる試みだ。


ただその効果や可能性が既存の自動車メーカーに伝わりにくい。カメラやセンサーモジュールを搭載した結果がどれだけ安全につながるかを理解してもらうために、わかりやすく自分たちでコンセプトカーを作ってみたのではないか。


実際、ビジョンSには33個ものカメラやセンサーが搭載されている。安全だけでなく、サスペンションの動きを調整するなど、乗り心地の向上にもセンサーを役立てようとしている。


トヨタ自動車もソニーも、2年前のCESでビジョンを発表した。両社とも目指すのは「クルマの未来」だが、それは1社単独で実現できるものではない。協力者が必要だが、自社が提唱するビジョンをすべての人にきちんと理解してもらうのは難しい。そこでビジョンを誰の目にもわかりやすいように具体化してきたのが今年のCESといえるだろう。それがトヨタ自動車の「自動運転車の走る街」であり、ソニーの「センサーによって安全に走れるクルマ」というわけだ。


今回のCESでトヨタ自動車とソニーの、未来のクルマに対する本気度合いがわかった気がする。クルマの将来は、トヨタ自動車とソニーが他の企業を巻き込むことで大きく変わっていくのかもしれない。


石川温(いしかわ・つつむ)
 

月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜午後8時20分からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで「趣味どきっ! はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。近著に「仕事の能率を上げる 最強最速のスマホ&パソコン活用術」(朝日新聞出版)がある。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

自由・多様性、未来への礎
資本主義のどこに問題があるのか。取材班は国内外の経済学者や企業人など50人ほどに問い続けた。見えてきたのは、ゆりかごにもなってきた民主主義のきしみだ。2020年の今、資本主義の未来に向けた新たな挑戦が始まる。

危うい持続性

「私と妻を含め金持ちはもっと税金を払うべきだ」。マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏は昨年末、自身のブログで訴えた。米政府は労働所得への課税に過度に依存しているとして、株式など資産課税を重くするよう提案した。


競争の勝者とされる米国の大富豪たちが「資本主義の危機」を唱え始めている。共通するのは、富める者に富が集中する今の仕組みを改めないと、持続性が危うくなるという主張だ。


資本主義のどこに問題があるのか。取材班は国内外の経済学者や企業人など50人ほどに問い続けた。


「経済はグローバル化しているのに、政治が反グローバリズムに傾いている」(小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長)


「デジタル時代の富の分配が洗練されていない」(アルン・スンドララジャン米ニューヨーク大教授)


仕組みづくり後手

資本主義の逆境の根底を探ると、民主主義のありように行き着く。ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や巨大IT(情報技術)企業への情報の集中が意思決定をゆがめ、新しい仕組みづくりが後手に回る。


いち早く資本主義を開花させた英国では、個人の人権や自由をうたう「権利の章典」が17世紀末に定められ、産業革命の下地になった。岡崎哲二東大教授は自由や多様性といった「民主主義の価値観が資本主義を育んできた」と語る。


だが資本主義と民主主義は時に緊張をはらむ歴史を歩んできた。資本主義が行き過ぎれば格差を招いて平等が危うくなり、民主主義が揺らげばポピュリズムを招いて市場原理に反した保護主義を生む。私たちが目にしているのは、両者のきしみが共振する世界だ。


逃げ出す香港人

大規模な抗議活動が続く香港。医師の張清林さん(27)はこの春にも英国などへ移住するという。「恐怖のなかで生きるのか、自分の生活を楽しむために努力するかのどちらを選ぶかだ」


香港ではビザに必要な書類申請が急増する

香港警察によると、ビザ取得に必要な「無犯罪証明書」の申請件数は2019年11月に3460件と前年同月から9割増えた。


米高度人材ビザは申請却下の割合が高まっている

米国ではトランプ政権の誕生以降、世界から人材を集める力が弱まっている。国外のIT技術者らを受け入れる「H1Bビザ」の審査が厳しくなり、米シンクタンクのNFAPによると、18年10月から19年6月までに24%が拒否された。香港と米国を起点とする新たな人の流れは、民主主義の価値観が脅かされ、経済の基盤すら危うくなりかねない現実を映し出す。


社会像、AIが可視化

未来への手掛かりはどこにあるのか。大和総研が177の国と地域の経済的な自由度と1人当たり国内総生産(GDP)の関係を調べたところ、労働や貿易、投資などが自由にできるほど人々の豊かさは増す。


経済的自由度と生活水準は正の相関関係

さらに、日立製作所と京都大が開発した人工知能(AI)は、「失業率」や「豊かさ」といった149の要因から2万通りの未来図を描き、50年の持続可能な社会像を導き出した。浮かび上がったのは「利他的行動」や「道徳性」などのキーワード。アダム・スミスの時代に「見えざる手」とされた経済や社会の原動力がAIによって可視化される。


乗り越える課題は山積しているとはいえ、この先も資本主義に代わる選択肢はない。自由で多様性に富んだ資本主義の再生へ。次代に向けた模索の道が続く。

移ろう欲望 どうつかむ
資本主義の原動力である人々の「欲望」の対象が、モノから形のない共感や体験にシフトしている。モノを持たずにシンプルな生活をめざす「ミニマリスト」が若年層を中心に台頭。モノの大量生産・大量消費を前提に成長してきた従来型の資本主義経済を変え、新たな成長を生み出す。

モノを持たない

米国の経済学者、ソースティン・ヴェブレンは1899年の著書「有閑階級の理論」で、資本主義経済における消費の原動力は人々の見えや羨望にあると説いた。工業化が進みモノがあふれるようになると、高級品を見せびらかすための誇示的消費が増えるという。だがいま、若者たちはモノを持たない質素な生活を選び始めている。


「モノや家に縛られずに暮らしたい」。青く透き通る海が広がるフィリピン中部のドゥマゲテ。昨年9月に日本から移り住んだ元出版社勤務で作家、佐々木典士さん(40)の引っ越し荷物は2つのスーツケースと段ボール1つだけ。いまの主なお金の使い道は旅行だ。昨年も母親との南米旅行に約100万円を費やした。


ミレニアルがけん引

米オハイオ州に住むローズ・ラウンズベリーさん(38)の家にはほとんどモノが見当たらない。10歳の三つ子と夫の5人家族。居間にはテーブルとソファのみ。食器棚をのぞいても25枚ほどの皿と7つの鍋しかない。


仕事や育児に加えて家の片付けに追われ、おもちゃや日用品にあふれる生活に嫌気がさした。家にあった半分以上のモノを寄付。「モノから解放されて、自由を手に入れた気分」と話す。


モノの所有欲が乏しい「ミニマリスト」が台頭している。けん引役は1980年ごろから2000年にかけて生まれたミレニアル世代だ。世界で約20億人に上り、総人口の4分の1を占める。


ミニマリスト志向はミレニアル世代に目立つ

コンサルティング大手のデロイトによると、ミレニアル世代の人生の目標は「世界を旅する」が57%と最も高く、「自宅を購入する」(49%)などお金やモノへの欲求を上回った。


崩れる大量消費

資本主義経済の成長を支えた大量生産・大量消費。この図式を崩すのは意識の変化だけではない。デジタル技術の台頭でシェアリングサービスや個人間取引が容易になり、モノを持つ必要性が薄れている。


自動車ではシェアリングカーが1台増えると、乗用車販売が2台減るとされる。20年後には世界の新車販売を2000万台下押しするとの試算がある。個人間取引の影響も大きい。ニッセイ基礎研究所によると、日本の家庭に眠る不用品の総額は37兆円。市場に出回れば、新品需要が鈍りかねない。


世界のGDPに占める製造業の比率は低下

モノづくり産業の存在感も薄れていく。米国では国内総生産(GDP)に占める製造業の比率が、2017年までの20年間で5ポイント下がり11%になった。世界全体でも2ポイント低下した。


音楽ライブに100万円

デジタルを使いこなし、モノの所有欲が乏しいミレニアルが存在感を増すほど消費がしぼみ、成長は停滞するのか。


米ミニマリストの草分け、ジョシュア・ベッカー氏は「ミニマリストであっても欲望の総量は変わらない」と言い切る。モノの所有から、新たな欲望に矛先が変わったのだという。


東京都内の会員制飲食店「シックスカレー」。30代を中心に人気を集め、開店から1年あまりで会員数は1000人に膨らんだ。昨年秋に2号店を開設するなど、運営規模が拡大している。運営会社の高木新平代表は「単にカレーを売るのではなく、人と人とが交ざり合う機会を提供している」と人気の理由を語る。


1日1皿カレーを食べられる会員の平均来店頻度は月2回。月額3980円の会費は割高にもみえるが「カレーを食べに来るというより、人に会いに来ている」。会員で会社員の北岡真明さん(31)は満足げに話す。会員になると店の運営に意見したり、「1日店長」を担ったりできる。会員はカレーを媒介にした交流や体験に価値を見いだしている。


「入場無料の音楽ライブに100万円を払う人もいる」。音楽イベント「全感覚祭」を主催するマヒトゥ・ザ・ピーポーさん(30)は話す。来場者が感動や共感の度合いに応じて払いたい分を募金する。昨年の開催経費2000万円はすべて投げ銭でまかなった。


マヒトゥさんは「この空間にいくら払うか。極端に利便性が追求されているいまだからこそ、自分でちゃんと考えて払い、自分の時間をちゃんと過ごしたいという欲求が高まっている」とみる。


消費者の様々な欲望を探し出し、満たすことで発展してきた資本主義経済。欲望がモノから感情へと移りゆくいま、需要のかたちは捉えにくくなった。需要不足による長期停滞を抜け出すためにも、企業は進化を急がなければならない。

政府は国立大学や研究開発法人の出資規制を見直し、企業と共同研究する株式会社を大学外に設立できるようにする。現行の産学連携の仕組みでは大学の規則に縛られ、資金や人事面で制約を受ける。研究者に適切な報酬を支払えないといった問題が生じ、共同研究を促進するうえでの障害となっていた。規制見直しで海外と比べて出遅れている産学の協業を増やす狙いだ。



産学連携が活発な海外では大学が外部に研究組織を設けている例が少なくない。例えば米スタンフォード大学から独立した研究機関「SRIインターナショナル」は、政府機関や世界中の企業と組んで研究開発を請け負っている。日本企業ともトヨタ自動車や大林組などと共同でプロジェクトに取り組んできた。年間の収入は5億ドル(約500億円)程度で、約1700人の職員を抱える。


ベルギーのルーベンカトリック大学を中心に設置されたIMECはナノテクノロジーの研究拠点として有名だ。IMECは2019年にパナソニックと組んで、固体の電解質を使った電池の開発を発表した。


一方、日本では大学の研究者が企業と共同研究を実施することはできるが、小規模なものが多い。大学内の研究組織では、給与や人事制度など大学全体のルールを守らなくてはいけない。画期的な開発をしても適切な報酬を支払えなかったり、研究計画の承認などの事務手続きが煩雑だったりする問題があった。企業が求めるスピード感で研究開発できず、企業からは制度が硬直的だという批判も出ていた。


国立大が出資できる範囲も、現在は知的財産権を実用化する技術移転機関(TLO)やベンチャーキャピタルに限られる。このほか、指定された一部の国立大学法人はコンサルティングや研修・講習などを専門に手掛ける大学発のベンチャーに限って出資できるが、研究開発を手掛ける組織への出資は全体として認めてこなかった。


今回の規制見直しで、大学の外部に企業との共同研究のための株式会社を作れるようにする。出資にあてる財源は寄付金や特許料収入など大学の自己資金を想定する。


国立大は財政事情が厳しく、大学が設置する外部の研究組織には、企業の投資を呼び込むことを想定している。大学が研究成果の実用化に向け、企業と共同研究したり、民間企業の試作品製作などを請け負ったりする。


内閣府によると、新たに認められる外部組織では大学の研究者が大学と外部組織の両方と雇用契約を結ぶ「クロスアポイントメント」で働くことが見込まれる。大学の設備は外部組織が大学に施設利用料を払えば、レンタルできる。研究開発以外のマネジメントに関わる職員は専従とし、知財関連のノウハウを内部で蓄積できるように工夫することを促す。


内閣府が内閣法制局などと必要な法令改正を調整しており、20年の通常国会に関連法案を提出する方針だ。

政府はこれまでも産学連携活性化のため、国立大のTLOへの出資容認などを進めてきた。しかし海外と比べ、産学の協業は見劣りしているのが実情だ。


政府は25年度までに企業から大学や国立の研究開発法人に対する投資を14年度の3倍にするという目標を掲げているが、17年度は約1.2倍と低調な伸びにとどまっている。内閣府によると、大学の研究費の企業負担割合はドイツや韓国が1割超なのに対し、日本は2%程度と低迷が続く。先端技術を巡る国際競争が一段と激しくなるなかで、産学の連携を阻んでいる規制の見直しが急務となっている。


米グーグルはCESの会場で音声AIの機能強化について説明した(7日、米ラスベガス)

【ラスベガス=奥平和行】米グーグルが人工知能(AI)を活用した音声関連サービスを拡充する。記事などの長い文章を自然に読み上げ、翻訳する機能の開発などが柱となる。スピーカーや家電製品などを通じた音声AIの利用が増え、競争も激化している。スマートフォンなどで多くの利用者を抱える強みを生かし、機能強化を急ぐ。


世界最大のデジタル技術見本市「CES」が米ラスベガスで7日に開幕したのにあわせて説明会を開き、音声AI「グーグルアシスタント」などの機能拡充について説明した。グーグルは2018年からCESに大規模な展示スペースを設け、音声AIの利用を促す場として活用している。


新たな読み上げ機能は、記事やブログといった長文を人に近い調子で音読するのが特徴だ。同社の携帯端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した製品を通じて「このページを読んで」などと指示すると音読を始め、日本語を含む42の言語に翻訳する機能も備えた。提供を始める時期は明らかにしていない。


音声AIではディスプレーを内蔵したスピーカーを活用してリアルタイムで翻訳する機能も提供先を広げる。米ニューヨークのケネディ国際空港やアメリカン航空のラウンジなどで提供を始め、世界各地の空港やホテル、小売店など使えるようにする計画だ。


全米民生技術協会(CTA)によると、AIスピーカーがいち早く普及した米国では20年に出荷台数が前年比5%増の3900万台に達する見通しだ。世界全体では25年まで年平均30%を上回るペースで市場が拡大するとの予測もある。テレビや自動車など音声で操作できる機器も含めるとさらに利用者の裾野は広がる見通しだ。


一方、プライバシー侵害への懸念も高まっており、グーグルの製品管理担当ディレクター、オースティン・チャン氏は7日、「利用者が自分のデータがどう利用されているかを理解することが重要になっている」と説明した。


説明会では同社の製品は利用者の会話を無断で記録しないと強調した。さらに機能向上などのためにグーグルがデータを保存することに同意した場合も、「これはあなたのものではない」などと話しかけることにより直前の発言を削除したり、音声でプライバシー設定を確認したりできる新機能を紹介した。


2119年には同社の音声AIの対応機器が10億台に達したことを公表したが、今回は月間利用者が5億人を突破したと説明した。米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトなどとの間で音声AIを巡る競争が激しくなるなか、実際に日々の生活のなかで使われていることを示す狙いがありそうだ。


スピーカーやヘッドホンなどに加えてテレビへの搭載も増やしたい意向で、テレビの電源が入っていないときでも音声で起動できる機能を加えると発表した。まず中国の海信集団(ハイセンス)とTCL集団が米国で販売するテレビが新機能への対応を始める。グーグルは提供先をほかのメーカーにも広げていく方針だ。

グローバル化がもたらす痛みが、「保護主義の亡霊」をよみがえらせようとしている。成長の源となる自由貿易の基盤を固め直せるのか。資本主義が力を取り戻せるかどうかがかかった重い課題だ。
廃れる鉄鋼の街

2016年6月の熱狂をこの街のひとたちは時々思い出す。「政治家が過度のグローバル化を進め、富や雇用が海外に行ってしまった」。大統領選をにらんだトランプ氏が訪れて演説集会でこう述べ、鋼材への関税引き上げを約束した。ここは「ラストベルト(さびた工業地帯)」の一部、米北東部ペンシルベニア州モネッセン。1970年代までは鉄鋼で栄えていた。

18年に関税は引き上げられたのに、「状況は変わらないどころか、悪くなるばかり。店は閉まり、若者は街を出ていく」。地元の図書館員、デニス・フォードさんはあきらめ顔で話す。街に残るのはコークス工場1つだけ。街道沿いには誰も住まなくなった荒れ果てた家が並ぶ。


高関税で米国内の鉄鋼価格は一時的に大きく上昇した。だが、米中摩擦が重荷となり、19年の世界の貿易量は前年比1.2%増と10年ぶりの低い伸びになったと世界貿易機関(WTO)はみる。これが響いて世界の景気は低迷し、鉄鋼需要は急速に冷え込んだ。鉄鋼価格は足元で関税引き上げ前さえ下回り、モネッセンの苦境は深刻になった。


貿易、経済を効率化

経済のグローバル化が進み、敵視されることも増えた自由貿易。だが、国境をまたいだ競争を促し、成長を後押しする資本主義の大きな柱だ。冷戦が終結した90年以降、毎年の世界の貿易量と国内総生産(GDP)の伸びの方向性が一致する割合は約9割に達する。


世界の貿易量と成長率は連動性が高い

世界全体でみれば輸出入は相殺し合い、GDPの計算には影響しない。それでも貿易の伸びと成長に強い関係があるのは、「それぞれの国が得意な産業に特化し、足りないものは輸入すれば経済は効率的になる」からだ。約200年前、英経済学者リカードが説いた「比較優位」論。その重みはいまも変わらない。


とはいえ、自由貿易の恩恵はまんべんなく行き渡るわけではない。追われる側の先進国は痛みを感じ、保護主義に傾斜してしまう。


劇薬のドル管理

「より積極的にドル相場を管理していく」。米大統領選で民主党の候補を狙うエリザベス・ウォーレン上院議員は、「経済的愛国主義のためのプラン」と題した自身の政策を説明する文書でこう宣言した。狙いは輸出と国内製造業の後押し。「管理」とはドル売り介入を意味する。基軸通貨の押し下げは世界を揺るがしかねない劇薬だ。中国との貿易交渉を進める姿勢を見せているトランプ氏も、大統領選で有利になるとみれば「新たな貿易戦争カード」を切る恐れがある。


開かれたシステム、糧に

保護主義の先には不幸な結末しかないと歴史が証明している。1929年の世界恐慌の後、自国産業の保護を狙った関税引き上げが横行。世界的な貿易の減少で恐慌が深刻になり、ついには世界大戦が起こった。


開かれた貿易システムを成長の糧とする動きもとぎれてはいない。米国が離脱しても環太平洋経済連携協定(TPP)は11カ国でスタートし、日欧の経済連携協定(EPA)も発効した。


米国を引き戻し、自由貿易の基盤を固め直せるだろうか。資本主義が力を取り戻すためには、この難しい課題を避けては通れない。

その利益に大義はあるか

資本主義を生きる多くの企業が信じてきた「ROE(株主資本利益率)神話」が揺らいでいる。地球温暖化や格差拡大などの問題が深刻になり、利益だけを追い求める経営が立ち行かなくなってきたためだ。環境、従業員、地域社会、そして株主――。さまざまな課題・責任のはざまで最適解を探り当てる経営が求められている。


「株主至上」暴走

「目標としていた3億ドル(約330億円)を上回るコスト削減を達成しました」。設備の老朽化から大規模な山火事と大停電を繰り返した米カリフォルニア州の電力・ガス大手、PG&E。それなのに、2017年の年次報告書には誇らしげにこう書いてあった。


コスト削減の効果でROE(株主資本利益率)は17年に一時10%を超えた。だが、地球温暖化で森林地帯の乾燥が進むなか、電線の更新など安全維持に必要な投資を怠ったツケは巨額の損失となって跳ね返った。同社は損害賠償などで300億ドル超の債務を抱える可能性があるとして経営破綻し、再建途上にある。


「ROE神話」の暴走が根底にある。「株主のための利益追求」が資本主義における企業の責務だと米経済学者ミルトン・フリードマンは1962年の著書「資本主義と自由」で主張した。この考えが米国などで広がり、株主のためにいかに稼いだかを示すROEが重視されるようになった。


「公益重視」3000社超

ROEを高めるには研究開発や設備投資によって利益を増やしていくのが王道。だが、経営者はROEが下がれば株主からの退任圧力にさらされかねない。資金を自社株買いに回し、資本を減らしてROEを力ずくで押し上げるという危うい選択に走りがちだ。そうなれば、将来の成長や安全、環境保護への投資は後回しになり、従業員への還元もおろそかになる。


「ひずんだ株主至上主義」の修正はすでに始まっている。米経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは株主第一経営を修正すると宣言した。環境や従業員、地域社会など公益の重視を打ち出す「Bコープ」という新しい企業も台頭している。「株主最優先の経営ではない」とまで示すことを条件に、米非営利団体のBラボが認定する。ブランド力などで有利になるといい、アウトドア用品の米パタゴニアや仏食品大手ダノンの北米法人など3000社を超えた。


気候変動 コスト1兆ドル

ただ、環境などを含めた新たな社会的責任は重く、個々の企業にまかせきりにするのはこころもとない。競争上不利になるほど大胆な策は打てないし、将来のリスクをどう判定すればいいかも定まらない。ひとつの解は会計基準を進化させることかもしれない。


経済成長とともにCO2の排出増が止まらない

環境評価NPO、CDPの調査によると、世界の大手企業が気候変動に絡んで想定するコストは約1兆ドルにのぼる。こうした会計上は「見えない負担」が膨らんでいることに対応し、独化学大手BASFなど10社は環境や社会に与える影響を示す新たな会計基準を3年かけて作り出す方針だ。


会計ルールから進化

これが成功すれば経営者は将来に向けて必要な投資を判断でき、投資家の納得も得やすくなる。会計という企業のルールが変わるなら、競争の土俵も社会責任を織り込んだ新しい形に進化していくだろう。


利益を稼ぐのが企業の使命だ。そこが揺らげば環境保護への投資や従業員への還元といった社会的責任も果たせなくなる。問われるのは利益がそうした「大義」にかなっているかどうか。ROEを超え、新たな公式を探す時がきている。

革新呼ぶ刺激、競争でこそ

デジタルの世紀の資本主義が新たな独占に直面している。「GAFA」だけではない。多くの産業で競争が緩み、モノづくりでもデータや知的財産が集まる一握りの企業が高い壁を築く。斬新なイノベーションを生み出し、成長を取り戻す原動力は競争にこそ宿る。


弱まる競争

「34社に分割せよ」。1911年、米最高裁が解体命令を下したのは大富豪ロックフェラー氏らが興したスタンダード・オイル社だ。9割のシェアで石油価格を支配していた同社は、独占禁止法の洗礼を最初に浴びた巨大企業だった。


富を生む新たな資源は大きな利益をあげて急成長する産業を生む。その支配者が値上げで消費者に不利益を与えぬように市場の番人が目を光らせる。競争を促す資本主義のしくみは今、デジタル化で再来した「新独占」の試練に直面する。


牛耳るGAFA

検索エンジンといったネットサービスを牛耳るグーグルやアップルなどの巨大IT(情報技術)4社「GAFA」。マイクロソフトを加えた5社の純利益は直近で約1600億ドル(約17兆円)と、10年で6倍に膨らんだ。米国に本社がある上場企業の12%を占める収益力で、将来の脅威になる新興企業も買収でのみ込んでいる。


米5社の純利益シェアは上昇傾向


強まる大企業支配

新たな独占はGAFAに限らない。様々な産業で寡占化が進み、競争が弱まっている。市場の寡占度合いを示し、当局が企業合併の審査に使う「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」が世界ベースで上昇中だ。1990年代はほぼ一貫して低下したが、2008年を底に反転した。


世界の市場集中度は上昇の兆し


QUICK・ファクトセットのデータを集計すると、日米欧では3分の2の業種で売上高上位5社のシェアが10年前より高まった。低成長を乗り切るための再編などで同期間の世界のM&A(合併・買収)は累計50万件を超えた。この30年の間に大企業の売上高は米国で7倍、欧州で5倍に膨らんだ。いずれも名目ベースの国内(域内)総生産(GDP)の伸びを大きく上回る。


富の源泉は データ・知財へ

その背後には何があるのか。自由主義経済圏の広がりとITの進化がグローバルな事業展開を後押しした。富を生む源泉はデータや知財にシフト。モノづくりでもハードよりソフトウエアが性能の決め手となり、一握りの「持てる者」がより強くなる世界が訪れた。


例えば商用ドローン(小型無人機)世界最大手のDJI。成長分野の農業用は、種や農薬を効率よく散布するように飛ぶためのソフトの進化が強みだ。改良の糧は中国内で圧倒的多数を占める4万台超の飛行データ。ライバルが手に入れたくても入手できない情報の厚みで、さらに優位な地位を築く。


データはどんどん生み出されていく

データはまだまだ増える。米IDCの予測では25年に175ゼタ(ゼタはテラの10億倍)バイトと19年の4倍以上になる。インターネットに接続する人口は世界で25年に60億人と5億人増える。あらゆるモノがネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)の普及も進む。


目詰まり起こす循環

近代経済学の父、アダム・スミスは、「国富論」のなかで「生産者は競争が激しくなると新たな技術を取り入れる」と指摘した。斬新なテクノロジーやアイデアは新たな市場を創る。資本主義の理想的な循環だが、刺激役の競争の緩みで目詰まりを起こしかねない。


問題は、新たな独占には消費者の利益をモノサシにした従来の対処策が当てはまらないことだ。ネットサービスの多くは無料。モノの肝になるソフトは瞬時に複製できるため、製造コストを抑えて販売価格を下げられる可能性も秘める。


消費者にはむしろメリットが大きいようにさえ映るが、一橋大の岡田羊祐教授は「データや知財が特定企業に集中し過ぎると、多様なイノベーションが生まれず挑戦者の登場を阻む」と警鐘を鳴らす。


発展の原動力再起動を
競争が緩いほど成長率は低い傾向

世界122カ国・地域の1人あたりGDP(18年)伸び率は、寡占度合いが高いほど低い傾向が鮮明だ。デジタル時代の資本主義をどう再構築するか。成長の原動力となる競争を促すことが、その一歩となる。


グーグルやアップルなど米国の巨大IT(情報技術)企業が相次ぎ本格参入し、地殻変動が起きつつあるゲーム業界。近年は拡張現実(AR)や次世代通信規格「5G」などの新技術もゲームを起点に広がる。ゲームはどう進化して、産業や人々の行動を変えていくのか。任天堂の古川俊太郎社長に聞いた。


 古川俊太郎氏 1972年生まれ。94年早大政経卒、任天堂入社。
2012年ポケモン社外取締役、15年任天堂経営企画室長、16年取締役。経理部門が長く、ドイツにある欧州統括会社に約10年間駐在し、海外経験も豊富。東京都出身。

――5GやARなど、最先端の技術がゲームを通じて次々と実用化されています。

「新しいテクノロジーは世の中に先駆けてゲームで採用されてきた。長い年月を経て、ビデオゲームで遊んだ人が子供から親になっている。昔は子供しかやらなかったゲームが幅広い世代に広がってきた結果だ」


「『ポケモンGO』はARを使って、あちこちに登場するキャラクターを収集するために、老若男女が街中に繰り出す社会現象を生んだ。『初めてやったけど、これは面白い』という経験を多くの人に与えるゲームは、人の行動すら変えてしまう力を持つ」


――動画や音楽などコンテンツの枠を超えた競争が始まっています。

「今に始まったことではない。ゲームは生活必需品ではなく、いつお客さんが離れてもおかしくない、と私が入社したときからずっと言われ続けてきた。その危機感は常に持ち、ゲーム、エンターテインメントビジネスの宿命だと思っている。その意味ではとても厳しいビジネスだ」


「遊ぶ手段が乱立し、消費者の限られた時間を巡る時間の奪い合いの競争が激しくなっている。ゲームはその競争に対応しながら、今後もイノベーションを生み続ける必要がある」


――ゲームはイノベーションを生むゆりかごであり続けられますか。

「イノベーションとは、多くの人が常識で考えて不可能だと思うことが可能になることだ。常に『不可能が可能になるものがないか』と自問することが大切だ。『こんな遊びは技術的に不可能だ』と思っていたことが、何らかのアイデアで可能になった時に人々を驚かすことができる」


「皆さんが想像するゲームの枠を超えた取り組みはさらに増える。『Wii』のように体を動かしヘルスケアに寄与するゲームや、記憶力を鍛える実用系のゲームも生まれた。多くのお客さんに遊んでもらえる題材をゲーム機と組み合わせて、何ができるか突き詰めていった結果だ。『これは面白いぞ』というものが見つかったら、とにかく踏み込んでいく。そうすればイノベーションが生まれるときがある」


――技術でゲームはどう変わっていきますか。

「新しいテクノロジーが登場した時に最も大切なことは、ユーザーのゲーム体験の質がどう変わるかだ。ゲーム自体が面白くて、新しくて、驚きを与えることができるかがとても重要だ。技術的な環境がどうあれ、ゲームを開発する側はまず、消費者が手に取って遊びたいと思えるようなコンテンツを作る。その後でそれに役立つテクノロジーであれば、採用する」


「ゲーム人口の裾野は広く、ゲームで受け入れられたテクノロジーはほかにも普及しやすい。例えば、タッチスクリーンは『ニンテンドーDS』で使われた後にスマートフォンに広がった」


――スマホなど様々な端末で遊べるグーグルのクラウドゲーム「スタディア」が始まりました。

「グーグルみたいな大きな会社が参入すると、ゲーム業界が注目されるし、新しいテクノロジーがもたらされる可能性がある。ユーザーの体験の幅も広がる。様々な会社が切磋琢磨して、ゲーム産業の全体が盛り上がっていくのは歓迎だ」


■テクノロジーより独創性

――クラウドゲームの登場によって、「ニンテンドースイッチ」のような数万円する高額な専用機の存在感が薄れてしまいませんか。


「10年先にクラウドゲームが大きな人気を呼ぶ可能性はある。だが専用機がなくなると現時点では思わない。結論が出るのはかなり先の話だ。逆に、専用機でしかできない遊びを必死で磨かなければ意味がない。ほかのゲーム機やスマホで遊べるからいいじゃない、となったらおしまいだ」


――専用機の成功で、新分野に出遅れる「イノベーションのジレンマ」に陥っているのでは。

「一番のこだわりは、独創的な新しい遊びをつくることであり、ハードづくりではない。現時点で目指す独創的な遊びは、ハードとソフトを一体開発する体制だからこそ生み出せている。同じビルの中でハードとソフトの開発者が顔をつきあわせてベストの体験を作ることができるように考えているからだ」


――ゲームに本格参入したアップルはARに注力するなど、米企業は新技術の採用に積極的です。

「誤解してほしくないのは、我々は新しいテクノロジーに後ろ向きなわけではないということ。常に研究開発もしている。これまでも世の中にある新しいテクノロジーをハードの開発部隊が見つけてきて、ソフトの開発者たちと一緒に話して『このゲームに使えそう』と判断したら、採用してきた。これからも基本的な枠組みは変わらない」


「ARも当然、関心がある分野の一つだ。何か面白いことができないか、研究している」


――多額の賞金が売りの「eスポーツ」が話題を呼んでいます。任天堂も手がけますが、賞金はなく新潮流に乗り遅れた印象があります。

「eスポーツはプレーヤーが賞金を巡りステージで競い、その様子を観客が見て楽しむ。ビデオゲームの素晴らしい魅力の一つを打ち出せている。ただ対抗意識はない。当社のゲームは経験、性別、世代を問わず、幅広く遊んでもらうため、イベントも幅広く参加できるものにしたい。賞金の多寡ではなく、他社とは違った世界観ができているのが我々の強みだ」


■高額報酬競争とは距離

――イノベーションを生む人材を確保するため、高額報酬を提示する競争が広がっています。

「当然の流れだ。優秀な人材の確保はこれからますます厳しくなるのは間違いない。ただ当社はその競争には乗らない」


「世界中の顧客から『子供のころ遊んでました。今も子供とゲームで遊んでいます』などの声を聞く機会があるのは当社で働いているからこそ。そこに魅力を感じて門をたたく人に入ってもらいたい。会社で働くのはそれなりの時間費やすことになり、理念に共感することが重要だ。驚きのあるゲームを生み出す原動力はそこにある」


――今後も開発者が頑張らないと任天堂の魅力は保てません。どのように接していますか。

「開発者たちは貪欲に『ユーザーにこういう風に楽しんでもらえるのではないか』と頑張っている。彼らが自由にやれる環境をしっかり維持しつつ、会社を経営していくのが一番重要だ」


――あえて具体的に口出ししないと。

「もちろん中身に関してはしない。作る過程で、開発部門の出身ではない私が口出しすることは何の付加価値もない。任せるところはしっかりとその道のプロに任せる」


――任天堂は海外でイノベーションを生み出してきた日本企業の代表格ともいわれます。人口減の日本をどうみますか。

「日本市場の重要性は変わらない。ただ、少子高齢化は進んでいくので幅広い世代に受ける商品作りが大切だ。それであれば日本市場がどう変わろうが、多くの方に受け入れられる」


――国内市場は縮小しそうです。

「普通に考えたらそうだが、当社は既に連結売上高の7割超を海外が占める。まだリーチできていない市場での努力がより必要になっていく」


――自身もゲームでよく遊ぶそうですね。お気に入りのタイトルは。

「最近は(携帯型の)『スイッチライト』向けに出たポケモンの新作だ。ゲーム内でキャラクターを収集するのが好きなんで」


聞き手から 実務家トップ 変化読めるか


2018年に社長に就任した古川俊太郎氏は47歳。50〜60代が多い日本の大企業の経営者の中では若いが、任天堂では珍しくない。岩田聡元社長の急逝で緊急登板となった君島達己前社長(当時65)を除き、任天堂はこれまで当時22歳だった創業家の山内溥氏、同42歳の岩田氏と歴代若きトップが就いてきた。「長く経営を見られる人」(関係者)に経営を任せるのが、同社の流儀となっている。

 

開発陣の発言力が強いとされる任天堂の中で古川氏の経歴は異色だ。入社後、一貫して経理畑を歩む。ドイツにある欧州統括会社の駐在時に、経営管理能力の高さに目をつけた岩田氏が日本に呼び寄せた。社長就任の直前は経営企画室長として、全般に目を光らせてきた。

 

古川氏の持論は「娯楽産業には天国と地獄しかない」だ。開発者とは一線を画す実務家社長として矢継ぎ早に手を打ち、連結売上高の9割以上を占めるゲーム機の好不調が業績の乱高下を生む収益構造の改善に取り組んできた。  成果は表れ始めている。サブスクリプション(継続課金)収入の確保を目指し、18年9月に始めた定額制のオンラインゲームサービスの利用者は1000万人以上(19年6月時点)に達した。「スーパーマリオ」などの人気キャラを活用し、テーマパークや映画などにも事業領域を広げ、収益源の多様化を進める。

 

一方で競争環境は激変している。巨額の研究開発費を充てられるグーグルやアップルといった巨大IT企業がゲーム市場に本格参入するなか、テクノロジーの勝負では限界がある。古川社長は任天堂の課題を「『独創性』や『面白さ』の創出だ」と説く。最大の強みである、独創的なゲームやキャラクターを作り続ける力こそが今後も生命線だと認識しているからだろう。

 

コンテンツが魅力的である限り、事業のパートナーに名乗り出る企業は多い。「非開発畑」出身のトップが導くゲーム産業の未来は一にも二にもソフトの開発力にかかっている。


(川崎なつ美)

民主主義の未来守れるか

異形の資本主義国家、中国が産業競争力の強化へ走り続ける。データを駆使する21世紀型の産業競争では、国家主導の経済が優位性を持ちうる。自由を前提とする資本主義の真価が問われている。


力ずくの革新

「中国の飢えた虎」。国有半導体大手、紫光集団の趙偉国董事長はこんな異名をとる。2019年8月、その趙氏が内陸部の重慶市政府とDRAM工場を建設する契約を結んだ。「重慶は半導体メモリー工場を中核とした生産基地を整備するのにふさわしい」。DRAM工場建設には1兆円規模の資金が必要になるが、紫光と重慶市の契約には共同で投資ファンドを設けることも盛り込まれた。


世界3強に投資額匹敵

紫光は習近平(シー・ジンピン)国家主席の母校である清華大学が設立母体。重慶市は習氏の側近とされる陳敏爾氏がトップを務める。産業補助金の後押しも受け、紫光が10年間で計画する設備投資は11兆円。その規模は米インテルなど世界の3強に匹敵する。


中国勢の半導体技術は米韓企業に見劣りするとはいえ、「適者生存」の市場原理から離れた国家主導の産業投資は世界の競争環境をゆがめる。鉄鋼や液晶などで繰り返された力ずくのイノベーションが戦略部品である半導体に押し寄せる。


「経済発展には個人の自由が不可欠と言われてきたが、中国は必ずしもそうでないことを証明している」。クリントン米政権で国防次官補を務めたハーバード大のグレアム・アリソン教授は中国の国家資本主義が新しい産業競争で優位性を持ちうると警告する。


人工知能(AI)などがあらゆる産業の基盤となる21世紀には、いかにして多くのデータを集めるかが雌雄を決する。個人のプライバシーよりも国家の利益を優先する中国は間違いなく優位な立場にある。


「見える手」行方は

電子商取引のアリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は、ビッグデータとAIを組み合わせれば、国が資源配分を差配する計画経済が機能すると言い切る。アダム・スミスが成長の源泉とした「見えざる手」と対極をなす中国式の「見える手」経済は成功を収めるのだろうか。


アリババやネットサービスの騰訊控股(テンセント)などの世界的なテック企業は民間の競争から生まれた。だが習体制になってからの中国は民の領域を国家が次々と手中に収める。


定款で共産党への忠誠を誓う動きが上場企業に浸透し、ハイテク産業育成策「中国製造2025」などで国家主導の産業競争力強化に突き進む。主要国初の中央銀行による「デジタル人民元」も国家が決済や送金の情報を集める基盤になる。


ダイナミズム失うリスク

ただ国家による統制は経済のダイナミズムの芽を摘み、成長をむしばむリスクと背中合わせだ。


経済協力開発機構(OECD)によると、データの越境移転の制限やデジタルサービスへの外資系の参入規制の度合いは、ロシアやインドと比べても中国が格段に高い。日本経済研究センターは中国の実質成長率が2060年に0.3%程度に落ち込むシナリオを描く。海外から直接投資が入りにくくなり、データなど無形資産も推進力を失う。

中国はデータ越境などの規制が厳しい

米中の21世紀の覇権争いは激しさを増すばかりだ。中国がもしこの争いを制すれば、民主主義すら揺らぎかねない。自由競争を前提とする資本主義の真価がいま問われている。


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